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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)181号 判決

フランス国パリ(19°)75940 リュ・ド・フランドル28

原告

グループ・アンドレ・エス・アー

代表者

ジェラール・アロウ

訴訟代理人弁護士

鈴木修

矢部耕三

同弁理士

中田和博

東京都港区赤坂1丁目4番6号

被告

オークニジャパン株式会社

代表者代表取締役

大国進

訴訟代理人弁理士

秋本正実

同弁護士

荒川晶彦

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成4年審判第23240号事件について平成10年1月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2の項と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、商品区分(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)第22類の「はき物(運動用特殊靴を除く)、かさ、つえ、これ等の部品及び附属品」を指定商品として、「ANDRE」の欧文字を横書きしてなる商標登録第2026145号商標(昭和60年2月18日に登録出願、昭和63年2月22日に設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告は、平成4年12月11日に本件商標の商標登録の無効の審判を請求したところ、特許庁は、同請求を平成4年審判23240号事件として審理した上、平成10年1月16日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年2月13日に原告に送達した。なお、原告のために出訴期間として90日が付加された。

2  審決の理由

別添審決書の理由の写のとおりである。以下、審決と同様に、商標登録第2061163号商標を「引用商標」という。

3  審決の取消事由

審決の理由1ないし4は認める。同5のうち、利害関係に関する認定(30頁10行から31頁10行まで)は認め、本件商標と引用商標との類否の判断において、両者が外観上明らかに区別しうるものであるとの認定判断(31頁12行から14行)は争い、本件商標の構成及びこれから生じる称呼並びに引用商標の構成に関する認定(31頁15行から20行)は認め、その余は争う。

審決は、引用商標において「CHAUSSURES」の部分が商品の品質等を具体的に表示するものであること及び引用商標から「アンドレ」の称呼が生じることについての判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(「CHAUSSURES」の部分が商品の品質等を具体的に表示するものであることについての判断の誤り)

ア 審決は、引用商標において、「CHAUSSURES」の文字は商品の品質等を具体的に表示するものとはいえないと認定判断したが、これは誤りである。

イ 日本において、第2外国語としてフランス語が学ばれている比率は、古くから高く、第二次世界大戦後には、語学教育も大衆化し、急速なる発展をみている。そして、「CHAUSSURES」は、フランス語学習の初心者にも容易に理解される言葉であって、しかも、日常生活において極めて身近な「履物、靴」という物品の普通名称であるから、普通名称として、日本においても十分に理解可能なものであった。

また、履物あるいは靴は、非常にファッション性の高い服飾品ともいえ、その市場におけるフランス語の使われる範囲も広い。

更に、衣類・衣類付属品の輸入相手国・地域として、フランスは第7位で2.9%を占めており、アジアを除くと、イタリア、米国に次いで第3位、日本で一般に学習されている外国語の母国としては、米国に次いで2位である。

ウ 「CHAUSSURES」なる語が「履物、靴」を意味するという認識は、履物、靴を取り扱う小売業者や履物、靴関係の出版業者において普通であった。特に、首都圏に10数店舗を持つ履物、靴の有力小売業者ミハマ商会において、「CHAUSSURES」なる語が、ごく普通に需要者である最終消費者の目に触れる形で用いられていたし、昭和58年以来フランスの著名ブランドであるLANCELの販売においても、「Chaussures」が一般的に履物、靴を意味するものとして、その包装箱において用いられていたが、これらの事実は、「CHAUSSURES」なる語の意味が、履物、靴に関連する業者や最終需要者の目によく触れ、かつ、理解されていたことの顕著な証拠である。

エ 仮に、「CHAUSSURES」なるフランス語が広く一般に親しまれて用いられているものとはいい難いとしても、「CHAUSSURES」なる語がもともと「履物、靴」という普通名詞であるという事実は、指定商品を靴とする商標においては、異なる言語環境の他の国においても尊重されなければならない。これは、各国の商標登録審査における趨勢である。商標登録審査時における取引者、需要者の一般的認識のみによって判断するならば、世界の商標登録審査実務の趨勢に逆行しかねず、国際取引上の円滑なる経済活動を著しく阻害しかねない。

(2)  取消事由2(引用商標から「アンドレ」の称呼が生じること)について

ア 審決は、引用商標からは「ショシュールアンドレ」の称呼のみを生じると判断するが、これは誤りである。

イ 引用商標は、「CHAUSSURES」の部分と「ANDRE」の部分との間にスペースを挟んで組み合わされた商標であって、15文字からなり、その音も「ショシュールアンドレ」の8音からなるものであって、外観上も称呼上も、決して一体不可分のものとして認識され、発音されるものとはいい難い。そして、構成上2つの文字の組み合わせである以上、全体としての称呼とともに、「ANDRE」の部分からも独立して称呼が生じるとみるべきである。しかも、「ANDRE」の部分は、「CHAUSSURES」の部分に比較して、僅かに5文字と短く、単純で、日本人にとって遥かに読みやすい綴りとなっており、人名としてなじまれているから、フランス語を全く知らない者にとっても、容易に「アンドレ」の称呼を認識しうるものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1、2の事実は認める。同3は争う。

2  被告の主張

(1)ア  我が国の靴市場では、昭和62年ころには、「CHAUSSURES」が「履物、靴」の意味の語であることは、一般的に理解されていなかった。

イ  原告は、衣類・衣類付属品の輸入相手国・地域として、フランスは第7位で2.9%を占めていると主張するけれども、その根拠とする統計は、「履物、靴」の輸入相手国を示したものではないから、本件商標の登録査定時に「CHAUSSURES」の語が広く一般に親しまれていたことの証拠とはならない。輸入靴に占めるイタリアのシェアは圧倒的であり、到底フランスの比ではないが、靴の取引者、需要者には、イタリア語の靴という語「SCARPE」(スカルペ)は全く知られていない。その理由は、我が国内においては、「Shoes」、「シューズ」が圧倒的に流通し、あえてイタリア語を使用すべき積極的な意味がなかったからである。「CHAUSSURES」の場合も、これと全く同様である。

ウ  原告は、「ショシュール アンドル」、「LA HALLE AUX CHAUSSURES」の商標権を有しているが、その指定商品は、「ショシュール」、「CHAUSSURES」の語に対応する「履物、靴」以外に「かさ」、「つえ」等を含んでいる。このことは、我が国内において、「ショシュール」、「CHAUSSURES」が「履物、靴」であると広く一般に認識されていないことを原告が認めていることを裏付けている。

エ  ミハマ商会の買物袋として提出されている証拠(甲第8号証)については、東京都の電話番号の局番が4桁となっており、平成3年1月1日に局番変更が実施された後のものであるから、本件商標の出願時のものではない。また、上記買物袋の横側には、「欧州の靴とオリジナルシューズ」との記載があるが、この記載は、「CHAUSSURES」では意味が不明であるからこそ加えられたものであって、原告主張のような「CHAUSSURES」の理解が一般化していないことを示すものである。また、LANCELブランドの靴については、その「Chaussures」が多くの世人に認識されるような状態で流通していたことの立証がなく、逆に、「Chaussures LANCEL」が一体不可分の商標であるかの観を呈しているものである。

オ  外国語の普通名称については、その商品の名称を表すものとして一般に知られていたり、普通に使用されているものは、我が国においても日本語同様に等しく登録を認めていないのであるから、外国の言語を尊重しないということにはならず、国際法上信義則に反したり、経済活動を阻害するものではない。

(2)  取消事由2について

引用商標は、「CHAUSSURES」と「ANDRE」の間が1文字分弱の間隔で僅かにあいているにすぎず、構成する文字も15文字程度であり、同一大きさ、同一書体、同一色彩、同一間隔で書されていて外観上の結合が強く、語として一体性を有しており、全体としての称呼も8音程度と短く、ごろもよく、まとまりよく一気に発音しやすい音構成である。本来、商標は、その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されたものであるから、格別の理由が存すればともかく、みだりに商標構成部分の一部を抽出して、その部分だけを他人の商標と比較して類否を判定すべきではない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

第2  審決の取消事由について判断する。

1  取消事由1について

(1)ア  日本では、フランス語は義務教育における必修科目とはなっておらず、高等学校の教育においても、フランス語を履修する者が極めて少数であることは、当裁判所に顕著な事実である。そして、履物、靴の分野においても、フランス語の使用が一般的であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、大学等において高等教育を受けた者のうちの更に一部の者はともかくとして、一般の履物、靴の取引者、需要者は、フランス語の言葉の綴りを見た場合に、それがフランス語の中では平易な言葉であっても、その意味を直ちに理解できる程度の語学水準にはないものと認められる。

したがって、一般の履物、靴の取引者、需要者は、引用商標を見た場合には、「CHAUSSURES」の意味を理解できず、この部分を商品の品質等を具体的に表示するものとは認識しないものと認められる。

イ  もっとも、甲第7、第9ないし第16号証によれば、履物、靴の取引者の一部の者は、本件商標の出願時に、「CHAUSSURES」が「履物、靴」を意味するフランス語であることを知っていたことが認められる。しかし、上記アの認定事実によれば、前記高等教育を受けた者のうちの更に一部の者や上記取引者の一部の者等「CHAUSSURES」が「履物、靴」を意味するフランス語であることを知る者も、一般の履物、靴の取引者、需要者の上記語学水準にある者が引用商標を見た場合には、「CHAUSSURES」の意味を理解できないということを認識しているものと推認されるところである。そして、商品の品質等を表示する場合に、一般の取引者、需要者が理解できないような方法で表示したのでは折角表示した意味がないから、そのような方法でこれを表示することはほとんどないものと認められる。そうすると、上記「CHAUSSURES」が「履物、靴」を意味するフランス語であることを知る一部の者も、引用商標を見た場合に、「CHAUSSURES」の部分について、商品の品質等を具体的に表示したものと理解することが普通であるものと認めることはできない。甲第7、第9ないし第16号証の記載中、以上の認定に反する部分は、これに反する乙第5号証の1ないし7の記載に照らし、採用することができない。

(2)  もっとも、甲第7号証、第8号証の1ないし4によれば、昭和58年以来、フランスのLANCELブランド商品の販売には、上段に「Chaussures」、そ下段に「LANCEL」と記載した包装箱が使用されていること、首都圏を中心に百貨店内等に十数店舗を有する靴の小売業者ミハマ商会は、上部に「Les Chaussures」、その下に大きく「MIHAMA」、更にその下に「MOTOMACHI YOKOHAMA」等の地名を記載した買物袋を使用していたことが認められる。しかし、上記事実だけでは、そこに記載された「CHAUSSURES」が、デザインとしてではなく、その商品が「履物、靴」であることを表示するものとして理解された上で商品が取引されていたか否かという取引の実状が明らかではないから、これをもって、前記(1)の認定を覆すに足りるものということはできない。かえって、甲第8号証の2及び3によれば、上記ミハマ商会の買物袋には、側面に「欧州の靴とオリジナルシューズミハマ商会 元町本店 横浜市中区元町2-83 TEL 045(651)1221」等と記載されていることが認められ、上記事実によれば、上記ミハマ商会の買物袋は、商品の品質等を具体的に表示するためには、むしろ、側面に記載された「靴」ないし「シューズ」という語を使用しているのであって、一般の履物、靴の取引者、需要者は「Les Chaussures」なるフランス語を理解できないということを念頭に置いて作成されていると解されるものである。

(3)  甲第17号証によれば、平成2年ころには、衣類・衣類付属品の輸入相手国・地域としては、フランスは第7位で2.9%を占めており、アジアを除くと、イタリア、米国に次いで第3位であったことが認められる。しかし、上記事実によっても、本件商標の出願時に、履物、靴の輸入相手国として、フランスが大きな比率を占めていたものと認めることはできない。のみならず、日本国内におけるある商品の取引において輸入相手国の言葉が必ず使用されるというものでもないから、上記事実をもって履物、靴の取引において、フランス語の使用が一般的であったことの証左とすることもできない。したがって、上記事実は、前記(1)の認定を左右するものではない。

(4)  原告は、「CHAUSSURES」なるフランス語が広く一般に親しまれて用いられているものとはいい難いとしても、「CHAUSSURES」なる語がもともと「履物、靴」という普通名詞であるという事実は、指定商品を靴とする商標においては、異なる言語環境の他の国においても尊重されなければならず、商標登録審査時における取引者、需要者の一般的認識のみによって判断するならば、世界の商標登録審査実務の趨勢に逆行しかねず、国際取引上の円滑なる経済活動を著しく阻害しかねない旨主張する。しかし、「CHAUSSURES」なる語がもともと「履物、靴」という普通名詞であるということを尊重することや世界の商標登録審査実務の趨勢や国際取引上の円滑なる経済活動と、引用商標において「CHAUSSURES」の文字が商品の品質等を具体的に表示するものであるか否かとは別の問題であるから、原告の主張は、商標法の解釈としては、採用することができない。

(5)  以上のとおりであるから、引用商標において、「CHAUSSURES」の文字は商品の品質等を具体的に表示するものとはいえないとした審決の認定判断に誤りはない。

2  取消事由2について

引用商標は、「CHAUSSURES」と「ANDRE」の間が1文字分程度の間隔で、構成する文字も15文字であり、同一大きさ、同一書体、同一間隔で1行に書かれているものである。そして、前記1の認定のとおり、「CHAUSSURES」の文字は商品の品質等を具体的に表示するものとはいえないのであるから、引用商標は、その構成文字全体をもって、特定の観念を想起しない一体不可分のものとして把握されるものと認められる。そうすると、引用商標からは、「チャウシュレスアンドレ」又は「ショシュールアンドレ」の称呼が生じるものと認められるところ、そのいずれの称呼が生じるかはともかくとして、いずれにせよ、これが「アンドレ」と略称される理由があるものとは認められないから、引用商標からは、「アンドレ」の称呼が生じることはないといわざるを得ない。

原告は、構成上2つの文字の組み合わせである以上、全体としての称呼とともに、「ANDRE」の部分からも独立して称呼が生じると主張する。しかし、上記のように特定の観念を想起しない商標について、特段の事情もないのに、1行に書かれた文字が分離して称呼が生じるものとは解されないから、原告の主張は、採用することができない。

したがって、本件商標と引用商標は、称呼において互いに相紛れるおそれはないとした審決の認定判断に誤りはない。

3  以上のとおりであるから、本件商標は、商標法8条1項に違反して登録されたものではないとした審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張の違法はない。

第3  結論

よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成11年3月2日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

1.本件登録第2026145号商標(以下、

「本件商標」という。)は、「ANDRE」の欧文字を横書きしてなり、第22類「はき物(運動用特殊靴を除く)、かさ、つえ、これ等の部品及び附属品」を指定商品として、昭和60年2月18日に登録出願され、昭和63年2月22日に登録されたものである。

2.請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2061163号商標(以下、「引用商標」という。)は、「CHAUSSURES ANDRE」の欧文字を横書きしてなり、第22類「くつ類」を指定商品として、昭和59年6月27日に登録出願され、昭和63年7月22日に登録されたものである。

3.請求人は、「本件商標の登録は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第8号証(枝番を含む。)を提出した。

(1)本件商標は、その欧文字に相応して「アンドレ」なる称呼を生ずるものである。これに対して、引用商標は、その構成文字中の前半部の「CHAUSSURES」の語が「履物、くつ」を意味するフランス語であることは、昭和42年に発行された初心者向けの辞書に記載されており(甲第5号証)、かつ、我が国の履物類を扱う業界において本件商標の査定時である昭和62年11月頃には「履物、くつ」を意味するものとして一般に理解、認識されていたことは甲第6号証として提出する多数の書証より明らかである。また、現に「ミハマ商会」と称するはき物の小売店によって「CHAUSSURES」の語は「履物、くつ」を表すことが明らかな態様で買い物袋に使用されている(甲第7号証)が、この店舗によると昭和30年頃から使用しているとのことである。尚、この「ミハマ商会」という小売店は、横浜元町店を始めとして首都圏のショッピング街を中心に14店舗を数えており、これだけでも相当広く需要者の目に触れていることになる。

このようにして、引用商標がその指定商品である「はき物」に使用された場合には、当該「CHAUSSURES」文字の部分は需要者をして単に商品の品質を表示したにすぎない語と理解、把握させるにとどまり、引用商標における自他商品識別標識としての機能を果たす部分は、その構成文字中、後半部の「ANDRE」の文字にあるものと言うべきである。従って、引用商標は、その構成全体から「ショシュールアンドレ」の称呼を生ずることは当然としても、それのみならず「ANDRE」の文字部分に相応して「アンドレ」なる称呼をも生ずるものである。

してみれば、本件商標と引用商標とは「アンドレ」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、両者の指定商品も同一または類似であることは明らかであるから、本件商標は商標法第8条第1項の規定に該当し、同法第46条の規定により無効とされるべきものである。

(2)引用商標の構成中「CHAUSSURES」の文字が、本件商標の登録査定時に「靴」を意味するものとして我が国においても理解されていたことをより一層明らかにするため、甲第8号証の1及び同証の2を提出する。前者は本件商標の登録査定に先立つ昭和58年以来、著名ブランドである「LANCEL」の靴の国内販売に際して、写真のとおり、そのブランド及び原産地表示である「PARIS」の文字とともに、「Chaussures」の文字が表示された包装用外箱が日本で使用されていた事実、並びに前記文字が「靴」を意味することを認識していた事実を明らかにする東京都台東区浅草6-30-8スポーツマドラス(株)作成の証明書である。この写真中央にこのような表示がされた箱が1個置かれているが、また、その後方左側にも同一の箱が多数並べられている。甲第8号証の2は、それら後方に置かれている外箱の内1個をより鮮明に撮影したもので、撮影日は平成5年6月17日、撮影者は「東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル206区湯浅法律特許事務所内 中田和博」である。これらにより、「Chaussures」または「CHAUSSURES」の文字が請求人、ミハマ商会(甲第7号証)に限られるものでないことが理解される。更に当業界の他の使用例などが判明し次第、証拠を補充する所存である。

(3)請求人は、本件商標が引用商標と類似であること、即ち類似の商品について使用された場合に一般に出所の混同を生ずる恐れがあることを立証するために、引用商標中「CHAUSSURES」の部分が、本件商標の登録査定時には当該当業界において取引上「靴」を意味するものとして認識されていたことを明らかにしようとしているのである。ここにおいて「混同を生ずる恐れがある」といい得るためには、関係する取引者のすべて又は大多数が混同を生ずる必要はないと考える。

どのような世界にも公知・周知の事実を知らない者が少なからず存在するのは一般に顕著な事実であり、そのような者を捜し出すことは必ずしも困難なことではない。したがって、長年業界にいるにもかかわらず「CHAUSSURES」の語が「靴」を意味することを知らなかった者がいても、一般にそれ自体は何ら不自然なことではない。

即ち、乙第6号証の1から同号証の7におけるような内容の陳述がなされることは、いかに良心に基づいて真正になされたとしても何ら請求人の主張・立証に対して反証となるものではない。請求人は、その主張を裏付けるため、別添の通り甲第6号証の9乃至11を追加する。次に被請求人の提出に係る乙第7号証の1乃至7は、いずれもその第1項において「くつ類」について述べるものであるが、その定義が不明確であって、対象となった商品の範囲が明らかでない。このような概括的な証明は成り立たない。また、第2項についても対象たる商品の範囲が不明であるし、本件において請求人が主張立証している事項との関係が明らかでないので、これらについては弁駁は保留する。なお、被請求人は答弁書の第5頁第11行目から第12行目において「…ANDRE」などの構成からなる商標登録例の証拠を追加する旨述べているが、その提出があり次第、必要があれば弁駁する。

4.被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証乃至乙第20号証(枝番を含む。)を提出した。

(1)請求人所有と称する引用商標の権利者を商標登録原簿(乙第1号証)で確認すると、商標権者は「ショシュール アンドル ソシエテ アノニム」として登記されている。また、甲第6号証の1~8の各証明書の宛先も一様に「ショシュール アンドレ S.A.」となっている。しかるに本件の請求人は、「グループ・アンドレ・エス・アー」である。すなわち、引用商標の権利者と、請求人とが全く別の法人であるにも拘らず、請求人は引用商標を所有していると主張しているものである。

ところで無効審判を請求し得る者は当該審判を請求するにつき法的利益を有する者に限られるところ、商標権者と異なる請求人は本件商標の存在によって直接不利益を被る関係にある者ということはできない。そうとすれば請求人が仮に引用商標の権利者の関連会社であるとしても、単にそのことをもってしては、本件審判を請求することについて法律上の利害関係を有するものとは言えない。

(2)次に引用商標は「CHAUSSURES ANDRE」の態様中、「CHAUSSURES」の文字部分がフランス語の「履物、くつ」を意味する故、その自他商品識別標識としての機能を果す部分が「ANDRE」にあるので、本件商標と類似すると請求人が述べている点については、被請求人は断じて承服することができない。以下、その点について詳細に理由を述べる。

まず第1に引用商標の態様中「CHAUSSURES」の語が「履物、くつ」を意味するフランス語として初心者向けの辞書に記載されていると述べているが、辞書に収載されているからといって、一般にその意味が知られているとは限らないのである。最近語学教育が盛んに行なわれるようになってきてはいるが、その中心はやはり英語教育であって、フランス語は大多数の国民にとってはまだなじみの薄い言語であると言わざるを得ないのである。わが国の国民にとって「くつ」と言えば英語の「SHOE(S)」を、「シューズ(SHOES)」と言えば「くつ」を直ちに想起するほど英語の「シューズ(SHOES)」は「くつ」を指称する語として古くから老若男女、職業や分野の如何を問わず誰しもにきわめてよくなじまれ親しまれてきている言葉なのである。すなわち、「シューズ」は、「くつ」を指す言葉として一般の購買者や当業者を問わず日常頻繁に広く使用されており、日本語の「くつ」に勝るとも劣らないほど日本語化した外来語として定着しているのである。したがって、「くつ」と言えば、誰でもが当然のことながら「シューズ(SHOES)」を直感し、ほとんどの一般世人が辞書でしかその意味を確認しようのないほど全くなじみのないフランス語の「CHAUSSURES」を想定することはほとんど皆無であるといっても過言ではないだろう。そうとすれば、履物類を扱う業界において「CHAUSSURES」が「履物、くつ」を意味するものとして一般に理解、認識されていたとする請求人の主張には到底信じ難いものがあると言わざるを得ない。

ここで、フランス語の「CHAUSSURES」についてみると、最近の多くのフランス語関係の辞書、例えばコンコルド和仏辞典(白水社発行)、スタンダード和仏辞典(大修館発行)、プチロワイヤル和仏辞典(旺文社発行)などを見てもわかるように「履物」として「CHAUSSURES」が記載され、また「くつ」として「CHAUSSURE」、「Soulier」などの単語が記載されているのである。これらのことからその意味を一般人が認識しているかどうかは別として「CHAUSSURES」は「履物」の「CHAUSSURE」は、「くつ」の意味を基本的に有しているといえよう。それにも拘らず、甲第6号証の1~8の各書証で誰もが一様に「CHAUSSURES」を「靴」を意味するものであると理解していたとする証明には不審をいだかざるを得ないのである。要するに「くつ」に関する外来語としては、「シューズ」、「SHOES」が一般に広く知られており、一般購買者は勿論のこと業界においても「シューズ]、「SHOES」がもっぱら使用されていることは顕著な事実なのであり、本件商標の登録査定時である昭和62年頃には「CHAUSSURES」が業界で広く使用されていたとする甲第6号証の7の証明書には到底納得できない。さらに甲第7号証の買物袋については「Les Chaussures」と表示されてはいるが、「Les Chaussures」の文字が小さく人目に触れにくいこと、「Les Chaussures」の文字に気付いてもその意味が看者に理解されてはいないのではなかろうかと思われること(販売者はセンスの良さを訴え、商品イメージを高めるために洒落たつもりでフランス語を使ったりするが、それに接する看者には全くその意味が理解されていないことが往々にしてある)、店が10数店あるとしてもこれらの店で同じ袋を共通に使用しているとは思われないこと(百貨店では一般に出店業者の袋に使用せず百貨店独自の袋を使用している)、昭和62年頃もこの態様の袋が使用されていたのか明らかではないこと、などからこの甲第7号証に基づく請求人の主張は失当である。したがって甲第5号証~甲第7号証の証拠に基づいて「CHAUSSURES」が「履物、くつ」を意味するものとして一般に理解、認識されるとの請求人の主張には、被請求人は納得することができないのである。

請求人は甲第7号証の買物袋について昭和30年頃から使用していると述べているが、もしそうであるとすれば、引用商標の権利者と同一人の出願に係る商標「ショシュール アンドル」が登録第1263290号(公51-43912)(乙第4号証、乙第5号証)として「はき物」についても登録されている事実はどのように解釈すればよいのであろうか。この登録例は、計らずも請求人の主張に根拠のないことを裏付けるものである。

思うに引用商標は「CHAUSSURES」と「ANDRE」の二語が一体不可分に結合したものとみるのが自然である。

(3)そこで引用商標について考察すると、引用商標は、その態様より「ショシュールアンドレ」あるいは「ショシュールアンドル」の称呼が生ずるものと判断される。この引用商標から生ずる称呼は、その音数が10音とさほど冗長なものとは言えない。引用商標は、構成要素である各欧文字が同一書体、同一色彩、同一大きさで書されてなり、二語の間も1文字弱の間隔で僅かにあいているにすぎないものであって、外観上各文字の結合が強いものといえる。しかも引用商標は、権利者である法人名の略称であると明らかにみてとれるものである。このようなことより引用商標は、全体としての称呼も発音が、比較的短かく、まとまりよく発音し易く、語としての一体性があるということができる。すなわち、引用商標はその態様中「CHAUSSURES」が「履物、くつ」などの意味を認識させず、全体として権利者の略称であると、至って容易に認められるが故に、その態様中より「ANDRE」のみを抽出して本件商標と類似するとするのは妥当性を欠くものである。

なんとなれば、本件のケースと同じ事例が既に存在するからである。前述の乙第4号証の商標「ショシュール アンドル」は、被請求人の登録第904319号商標「ANDRE」(公45-39694号)(乙第2号証、乙第3号証)が存在しているのに拘らず、その後出願されて非類似として登録されているのである。この乙第4号証の「ショシュール アンドル」は片仮名文字にて表示されてはいるが、引用商標の字音を単に片仮名文字で表わしたものとみることができるので、本件のケースにそっくりあてはめることができる。

この登録例は「ショシュール アンドル」が権利者の略称として、一体不可分に結合したものとして認識されるので、「ANDRE」とは非類似として判断されたものであろうと確信する。引用商標に関してもこの例と同様に全体として権利者の略称として「CHAUSSURES」と「ANDRE」の二語が一体不可分に結合したものと認識されることが明らかである。したがって、「CHAUSSURES ANDRE」としてのみ認識され、「ショシュールアンドレ」あるいは「ショシュール アンドル」の称呼が唯一生ずる引用商標は、本件商標と決して相紛れることがないものと言わざるを得ない。なお、被請求人は、昭和44年頃から「ANDRE」の商標を「くつ」や「かばん」などの皮革製品にいわゆるトータルブランドとして使用してきており、「ANDRE」といえば被請求人の商品であることが一般購買者・取引者間において知られるに至っていることを付言する。したがって具体的な一般取引市場においても、本件商標は、引用商標と相紛れることがないものと信ずる。

(4)上述したように本件商標は、引用商標と類似しないことが明らかであるので商標法第8条第1項の規定に違反して登録されたものであるということはできず、同法第46条の規定に該当しないものと確信する次第である。

(5)請求人は、審判理由補充書において、引用商標の態様中「CHAUSSURES」の文字が本件商標の登録査定時に「靴」を意味するものとしてわが国においても理解されていたことをより一層明らかにするためとして包装用外箱の写真(写し)及び証明書を提出している。この包装用外箱の写真(写し)からは、なるほどその側面に「Chaussures」の文字が見てとれるが、要はその意味を一般の購買者が果たして正しく理解しているかどうかである。甲第8号証の1の証明書によれば、その証明者は包装用外箱の「Chaussures」の意味を知っているとのことであるが、自社で販売している商品についてはその自社商品知識の一環として関係当事者であるならば知り得る機会もあろうし、また知っておかなければならないことでもあろうから自社で販売する商品についてのこの証明書は客観性や中立性に欠け信憑性がきわめて乏しいものであると言わざるを得ない。また、包装用外箱の「Chaussures」については、商品がフランスのブランドのものであるから、フランス語で表示されているのであり、このことをもって「Chaussures」が「靴」を意味する言葉として一般に理解されているということにはならない。被請求人は業界において長年靴の製造販売に携わっており、業界の動向にも精通しているが、商品の包装箱や包装袋などに「Chaussures」と表示されているのをついぞ見かけたことがない。思うに靴の包装箱や包装袋などに「Chaussures」と表示したものが仮にあったとしても、大量に多種類の靴が市場に氾濫している中でその数量は極めて限られていて人目に触れることも少ないであろうし、また人目に触れたとしても言葉の意味が理解されているとは限らないのである。この種の包装箱や包装袋には一般にhigh sense、original goods、new modeなどというように商品の品質の良さや流行の商品であることを誇張するような欧文字からなる言葉が表示されていることが多く、加えてこれらの言葉については商品の購買者が無視しているかほとんど注意を払っていないのが実情であることに鑑みれば、購買者は「Chaussures」についても馴染のないフランス語であるが故に前記言葉と同様な意味合いを示す言葉が表示されている程度にしか認識していないのである。

上述した各理由からして、本件商標の登録査定時である昭和62年11月頃には「Chaussures」の意味は商品の取引者や購買者に理解されていなかったとするのが自然である。

被請求人のこの主張は次ぎのような証拠から肯定されう。

(6)乙第6号証の1から同号証の7は本件商標の出願以前より靴を中心とする履物業界において長年取引に従事してきた者の証明である。これらの証明によれば、昭和62年頃には「CHAUSSURES」が袋や包装箱などに使用されていなかったこと、靴を意味する外国語としては当時「SHOES」が一般に使用されていたこと、「CHAUSSURES」が昭和62年頃には「靴」を意味する語として当業界で一般に認識されていなかったことは勿論、長年業界に居る証明者自身もその意味を知らなかったこと、したがって引用商標は「靴のANDRE」や「ANDREの靴」として認識されることが全くないこと、などが証明されている。すなわち、これらの証明から「CHAUSSURES」は「靴」を意味するものとして本件商標の登録査定時に業界で認められていなかったことが理解されようし、また一般の購買者にとってはなおさらのことその意味が知られていないことがわかろう。上記の点から、引用商標は、「CHAUSSURES ANDRE」として一体不可分のものとして認識すべきであって、単に「ANDRE」として認識すべきでないことが理解されよう。要するに引用商標は、既に述べたように全体としての称呼もさほど冗長ではない上に、よどみなく発音しやすいものであり、外観的にもまとまりがあって出願人の名称の略称であるといとも簡単に認識させるものがあり言葉としての一体性に富んでいるので「CHAUSSURES ANDRE」としてのみ認識されることが明らかであると言わざるを得ない。

また、本類の商品区分においては、「……ANDRE」、「ANDRE……」、あるいは「……アンドレ」、「アンドレ……」などという態様の商標が数多く登録や出願公告されている。これらの登録例については、後日証拠として提出する予定である。このように「ANDRE」や「アンドレ」の前後にほかの言葉が結合した商標の登録(公告)例などがあるということは引用商標もそれら登録例と同列にあるものとして商品の取引者や購買者が認識することになるので、この点からしても本件商標は引用商標とは明確に識別できるものと言わざるを得ない。さらに、被請求人は、乙第7号証の1~7の証明書を提出する。

この証明書によれば、本件商標「ANDRE」は、昭和47年以降現在に至るまで靴類について使用されてきた結果、需要者に広く知られるようになっていることがわかる。被請求人は本件商標をその指定商品中、ことに靴について長年にわたって大規模店舗などで広範囲に販売を継続して信用を蓄積してきており、引用商標の出願された昭和59年6月当時には「ANDRE」といえば被請求人の商標として既に知られるようになっていたのである。このように本件商標が現実に広く知られるにいたっている事実を考慮すれば、本件商標は、引用商標「CHAUSSURES ANDRE」とは具体的取引市場においても決して相紛れることがないものといえる。

(7)請求人は、引用商標中「CHAUSSURES」の部分が本件商標の登録査定時には当該当業界において取引上「靴」を意味するものとして認識されていたことを明らかにしようとしているのであると、主張している。だからこそ被請求人は昭和62年当時に「CHAUSSURES」という語が「靴」を意味するものとして果たして知られていたのかどうかを明確にしたくて革靴の仕入れ販売にあたる第一線にいる当業界の人々に当時の実情を明らかにしてもらったのが乙第6号証の1から同号証の7なのである。要するに、昭和62年当時、「CHAUSSURES」が「靴」を意味する語として当業界において認識されていたかどうかについては、「靴」の流通過程や販売形態が当時どうであったかという点に踏み込まなければ業界関係者の証明書をいくら堤出しても証拠としての客観性に欠けるのである。

そこで最も典型的な「靴」の店舗販売について百貨店やスーパーマーケットに代表される大型店舗の靴売場、靴専門の大型店、小さな靴店などにその実際をみてみると、いずれも店内に「靴」のみが整然と並べられているだけで、靴箱は人目に触れにくい所に収納されているのが現状である。

このような状態にあっては靴箱に表示されている商標が店舗を訪れた看者の目に触れる機会はまずないと言ってよいほどである。また、前記の販売店の商品広告、例えば、商品カタログや新聞折り込み広告などをみても、そこに表示されているのは通常「靴」あるいは「シューズ」の語、「ブランド名」のほかに商品の品質のよさや流行の品であることをアピールする語であり、「CHAUSSURES」や「ショシュール」などの語が表示されていることはないのである。当然のことながら、これらの商品広告の中には有名なフランスのブランドを付したものもあるわけであるが、だからといってそれらの商品広告に「CHAUSSURES」や「ショシュール」の語が使用されているわけではなく、依然として「靴」「SHOES」「シューズ」「ブーツ」の語が使用されているのである。現在においてさえ靴に関する商品広告の実態がこの程度のものであるから、まして昭和62年頃に「CHAUSSURES」や「ショシュール」の語が業界において広く理解されていたとは到底思えないのである。業界において広く理解されていたというからには、通常「CHAUSSURES」や「ショシュール」の語が靴について日常的によく使用されていたなどの背景がなければならない筈である。そうでなければ請求人提出の証明書は証明した者が個人的な知識として「CHAUSSURES」の意味を単に知っていたにすぎないと理解されかねないのである。靴の商品広告に接し、店頭で靴の品選びをする消費者や靴の販売に携わる人が「CHAUSSURES」の語に接する機会がないのに業界において当時広く認識されていたとどうして言えるのであろうか。むしろ、被請求人提出の乙第6号証の1から同号証の7の証明書において、昭和62年頃「CHAUSSURES」が「靴」を意味する語としては当業界で一般的に認識されていなかったとする証明のほうが自然であると言わざるを得ない。結局、「CHAUSSURES」は、昭和62年頃「靴」を意味する語として認識されていなかったのである。なお、甲第6号証の10の証明書については、極東の国々より履物をフランスに輸出したことがあるので「CHAUSSURES」という語を使用していたとのことであるが、何故か極東の国々と曖昧な言い回しとなっているのが腑に落ちない。

(8)被請求人が上述したことは次ぎの証拠によっても裏付けられよう。

旧第22類全部を指定商品として

LA HALLE AUX CHAUSSURES

ラ アル オ ショシュールが登録第2618009号として登録されている(乙第8号証、乙第9号証)。

この商標は、平成6年に登録されており、その指定商品には「はき物」はおろか「かさ、つえ」などの商品も含まれているのである。しかも、商標権者は、本件審判の請求人なのである。この商標がその態様中に「CHAUSSURES」の語を含んでいるにも拘らず「はき物」以外の商品を指定商品に含んでいるということは、「CHAUSSURES」が「靴」を意味するものとして認識されていないということであり、しかも請求人自身がその事実を計らずしも認めたことこなるのである。このように乙第8号証の登録商標が本件商標と同じ商品区分において、しかも平成6年とごく最近においても「はき物」以外の商品にまで登録されていることを考えれば、昭和62年当時には「CHAUSSURES」が「靴」を意味する語として理解されていなかったという被請求人の主張が裏付けられよう。

(9)次に請求人は、本件審判の事例と全く同じケースに当たる「運動用特殊靴」に関する登録例を挙げる。

一方は請求人の所有に係る登録第1676222号商標「CHAUSSURES ANDRE」(乙第10号証、同第11号証)であり、他方はその後に出願され登録された登録第3240243号商標「ANDRE」(乙第12号証、同第13号証)である。すなわち、この事例においても、「ANDRE」は「CHAUSSURES ANDRE」が登録されているにも拘らず非類似として登録されているのである。しかも、「ANDRE」は、平成8年に登録されているのである。

しかして、この登録例からは、「CHAUSSURES ANDRE」は、請求人の名称を表示したものとして認められ、その態様からは単に「ANDRE」としては認識されないものであると言えるのである。このように「ANDRE」が「CHAUSSURES ANDRE」の存在に拘らず最近登録されているということに鑑みれば、本件商標が昭和62年当時、引用商標と類似しないものとして登録されたとしても何ら不思議なことではなく、引用商標の存在によってその登録を無効とされるものではない。

(10)次に「はき物」について「ANDRE」あるいは「アンドレ」をその態様中に含む「ANDRE~」あるいは「アンドレ~」なる商標が多数登録されているので、以下にその一部の例を挙げることとする。

商標 登録番号

ANDRE COURREGES 935596

乙第14号証

andre laug 1171305

乙第15号証

ANDRE GHEKIERE

アンドレ ゲェキエール 1647878

乙第16号証

andre claude canova 2430995

乙第17号証

ANDRE LUCIANO 2596186

乙第18号証

ANDRE SARDA 3196621

乙第19号証

Andre Clerici 公8-56888

乙第20号証

これらの例からも言えるように本件商標があるにも拘らず「ANDRE~」あるいは「アンドレ~」なる態様の商標が登録されていること、しかもこれらの商標はことごとく人名あるいは略称として認識されるものであること、出願人が外国人の場合にはその出願人の氏名や名称の略称を商標としていること、そして引用商標の「CHAUSSURES ANDRE」がこれらの各商標と外観上同様な態様のものとして見られること(ANDREが後に配置されてはいるが)、から引用商標は人名あるいは略称として看者に容易に認識されるものなのである。事実、引用商標は、請求人(出願人)の略称を欧文字にて表示したものとなっているのである。なお、「ANDRE~」あるいは「アンドレ~」なる態様の商標は、前記例に拘らず、第25類、旧第17類、同21類などいわゆるファッションに関係する商品区分においては多数登録されている。要するに、商品の需要者などは「ANDRE~」などの態様の商標に日常よく接していて見慣れているので、引用商標に対しても「CHAUSSURES」に「靴」の意味があるとしても一般に馴染みがない故、前記のような商標と同列のものとして認識するのである。 したがって、このようなことからも、本件商標は、引用商標と相紛れることがないと言えるのである。

5. よって、本件審判の請求に関し、当事者間に利害関係について争いがあるので、これを判断する。

職権をもって当庁備付けの商標登録原簿を調査したところ、引用商標の商標権者は、当初「シヨシユール アンドル ソシエテ アノニム」であったが、その後、同人は名称を「グループ アンドレエス アー」に登録名義人の表示変更により改称しており、本件審判請求人と引用商標の商標権者(審判請求人)とが同一の者であることが確認できた。

そして、自己の登録商標が存在するとき、これと同一または類似の後願に係る他人の登録商標を排除することは、商標権の本質に照らし当然の権利であるというべきであり、これを放置すれば商品の出所の混同を生ずるおそれがある等、本件商標の存在によって直接不利益を受ける地位にあるものというを相当とする。

したがって、請求人は、本件審判請求をするにつき、利害関係を有する地位にあるものといわなければならない。

そこで、本案に入って本件商標と引用商標との類否について判断するに、両商標の構成は前記したとおりであり、外観上明らかに区別し得るものである。

次に、称呼についてみるに、本件商標は、「ANDRE」の文字よりなるものであるから、その構成文字に相応して「アンドレ」の称呼を生ずるものである。

一方、引用商標は、「CHAUSSURES ANDRE」の文字よりなるものである。

そこで、請求人の提出に係る証拠についてみるに、たとえ構成中の「CHAUSSURES」の文字が、甲第5号証によれば、フランス語で「履物、靴」等を意味するものと認められるとしても、これが広く一般に親しまれて用いられているものとはいい難く、また、甲8号証の1及び2によれば、「CHAUSSURES」の文字が「靴」の「包装用外箱」に表示されているのが認められるが、該文字が靴の販売に際して使用されたと見られるのはこれのみである。更に、「CHAUSSURES、という語は靴を意味するものである」等とした甲第6号証の1乃至11及び甲第7号証の証明書及び写真等は、請求人の得意先と見られる者及び極一部の販売業者等によって作成、証明されたと思われるものであり、かつ、「CHAUSSURES」の文字が商品「靴」を表示するものとして使用されている証拠は、何等示されていない。

そうとすれば、請求人提出の甲各号証をもってしては、「CHAUSSURES」の語が「靴」を意味するものとして、本件商標の登録査定時に、履物の取引業界並びに需要者間において広く知られていたものと認めることはできない。

してみれば、かかる構成においては、「CHAUSSURES」の文字は商品の品質等を具体的に表示するものとして直ちに理解し得るものとはいい難いところであり、むしろ構成文字全体をもって、特定の観念を想起し得ない一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。

したがって、引用商標は、「CHAUSSURES」と「ANDRE」とに分離して把握する格別の理由もないというべきであるから、その構成文字全体に相応して「ショシュールアンドレ」の称呼のみを生ずるものというを相当とする。

そこで、本件商標より生ずる「アンドレ」と引用商標より生ずる「ショシユールアンドレ」の称呼を比較するに、両者は音構成において顕著な差異があるものであるから、称呼において互いに相紛れるおそれはないものである。

さらに、観念についても、両商標とも特定の語義を有しない造語よりなるものと認められるから、比較すべくもない。

してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれについても相紛れるおそれのない非類似の商標といわざるを得ない。

したがって、本件商標は、商標法第8条第1項に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすることができない。

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